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ところで,労働審判を自分でやるのと弁護士に依頼するのとでは,どちらがよいでしょうか?私は,自信をもって「弁護士に依頼した方がいいですよ。」とお答えします。その理由は次のとおりです。
労働審判は第1回期日でほぼ勝負が決まるという極端な短期決戦です。そのため,申立書や証拠の取捨選択の判断によって結果が大きく左右されます。
特に,申立書の必要的記載事項(必ず記載しなければならない事項)である「予想される争点」をどう捉え,各争点につき,主張の正当性を基礎づけるために証拠だけでなく自己に有利な判例・学説等を適切に引用して論理を組み立てる必要があります。
弁護士はまさにこのような仕事を行うプロフェッショナルです。
福岡地裁本庁では,第1回期日の冒頭に,各5分間ずつ,申立書・答弁書や証拠状況を踏まえて代理人弁護士がプレゼンテーションを行う運用となっています。これは,争点を明確にし,各当事者が特に重要と考えている事実や証拠を主体的にアピールする機会として設けられており,短期決戦を有利に進める上で,このプレゼンの出来は重要なポイントとなります。
私は,このプレゼンを重視しており,原則として必ず事前にペーパーを作成してアピールポイントを整理した上で第1回期日に臨んでいます。また,弁護士が代理人に就いていれば,法廷で当事者の隣で座って本人に代わって回答したりフォローしたりすることもできます。
期日前日は眠れないほど緊張される(無理もないでしょう)労働者の方にとって,質問の狙いや委員の発言の趣旨を適切に読み取って不利な展開とならぬよう目配せし,調停の際少しでも有利な解決水準となるよう駆け引きすることができるのも,弁護士だけです。
最高裁によると,申立人(労働者側)に代理人がついた場合(全体の87.2%)の調停成立率は72.2%であるのに対し,弁護士をつけずに労働審判を申し立てた場合の調停成立率は59.1%と13.1ポイントの開きがあります(2014~2018年平均)。なお,双方ともに弁護士がついていない場合の調停成立率は41.1%です。
福岡地裁本庁も同様の傾向であり,裁判所と弁護士会との協議会においても,弁護士選任率を上げることが実効的解決に資するとの見解で一致しています。
なぜなら,弁護士は常に「本訴(通常訴訟)に移行して判決になった場合どうなるか」という視点で労働審判手続に臨んでおり,不当に低すぎる水準であれば強気で押す一方,判決になると厳しそうな場合はギリギリ有利なところで和解(調停成立)できるよう,考えを巡らせることができるからです。
弁護士は,すべての法律事務を扱うことができる唯一の国家資格です。したがって,弁護士が労働審判手続を選択するとき,それは純粋に依頼者にとって最も利益となる適切な手続であると考えたからにほかなりません。
逆にいえば,会社が破産寸前の場合であれば,他の債権者より早く回収するために先取特権に基づく差押えや示談交渉による早期回収を優先するでしょうし,アテにしていた会社の優良資産が売却されそうであれば仮処分でピン止めすることから始めなくてはなりません。要するに,弁護士にとって労働審判手続は数多くの紛争解決メニューの1つにすぎません。
また,労働審判で解決できずに本訴(通常訴訟)に移行したとしても,弁護士は引き続き代理人として活動でき,依頼者も出廷する必要がなくなるので大したデメリットはありません。
これに対し,他士業や謎の団体等が労働審判のサポートと称して報酬を得るのはそもそも非弁行為という犯罪に該当するだけでなく,本訴に移行した場合は手を離さざるをえなくなることから,依頼者の利益そっちのけで労働審判手続内で解決させようとの利益相反圧力が常に存在することになります。
どういうことかというと,たとえば客観的にみて本来200万円もらえるべき事案であるにもかかわらず,会社側が70万円しか払わないと強硬に主張した場合,弁護士であれば躊躇なく調停を蹴って本訴で200万円を目指しますが(本訴では弁護士のみが出廷すればOK),弁護士以外の者は1年以上本訴につきあったり(しかも,毎回本人が出廷する必要あり。),法廷に立って証人尋問をすることは絶対不可能なため,「70万円で手を打て。」と耳元で囁くでしょう。このように,弁護士以外の「サポーター」と依頼者の利益は,潜在的に衝突する関係にあるのです。
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